AGIとRSI
――「AIがAIを改良する」時代の現在地

2026年、OpenAIの「GPT-6 Astra」の登場を機に、経営トップから「AGIに到達した」との発言が相次いだ。同時に、OpenAI・Anthropic・Sakana AIなどが「再帰的自己改善(RSI)」の研究や政策提言を発表している。AGIはどこまで実現し、RSIの研究はどこまで進んだのか。定義・評価・事例から現在地を整理する。

AGI到達をめぐる、トップ経営者の発言
RSIをめぐる、主な研究発表・政策提言

01AGI、RSIとは何か

AGIの定義

AGI(Artificial General Intelligence)には、現在のところ統一された定義がない。代表的な考え方は次のとおりである。

提唱者・組織定義・考え方中心となる基準
AGI Society人間の心に匹敵する知能を持つ汎用システム汎用性・人間級
OpenAI経済的に価値のある仕事の大部分で人間を上回る、高度に自律的なシステム仕事・人間超え・自律性
Google DeepMind汎用性と能力水準の2軸で、AGIを5段階で評価する汎用性 × 能力水準
François Chollet知能とは、未知の問題に対して効率よく新しい技能を獲得する能力である新規課題への一般化・学習効率
AnthropicAGIという語を避け、多くの分野でノーベル賞受賞者より賢く、長期タスクを自律遂行できるAIを想定する超専門家級+自律性

Google DeepMindは、AGIを「Generality(汎用性:どれだけ幅広いタスクができるか)」と「Performance(能力水準:どの程度うまくできるか)」の2軸で評価し、能力水準を次の5段階で定義している。

レベル名称人間との比較
Level 1Emerging AGI未熟練の人間と同等以上
Level 2Competent AGI熟練成人の50パーセンタイル以上
Level 3Expert AGI熟練成人の90パーセンタイル以上
Level 4Virtuoso AGI熟練成人の99パーセンタイル以上
Level 5Superhumanすべての人間を上回る=ASI

Googleは、2段階目の「Competent AGI」が、従来多くの人が考えてきたAGIに最も近いとしている。

もう一つ重要なのが、Googleの元リサーチエンジニアであるフランソワ・ショレ氏の定義である。ショレ氏は、AIが「すでに何をできるか」ではなく、「見たことのない新しい問題を、どれだけ効率よく学んで解決できるか」を見るべきだと主張している(“On the Measure of Intelligence”)。この考え方から、AGIのベンチマーク「ARC-AGI」が生まれた。

なお、「AGI」という語自体は、1997年にマーク・グブラッド氏が軍事の完全自動化を論じる中で用いたのが最も早い例とされる(“Nanotechnology and International Security”)。氏は、人間の脳に匹敵またはそれを上回り、一般的な知識を獲得・操作・推論できるAIとして定義した。

ただし、AIの研究分野の名称として成立させたのは、ベン・ゴーツェル氏、シェーン・レッグ氏、カッシオ・ペナチン氏の3氏である。2002年頃にレッグ氏が提案した名称を、ゴーツェル氏らがグブラッド氏の使用を知らずに採用し、書籍のタイトルにした。2008年からは「AGI Conference」が開催され、研究分野名として定着していった。

本レポートでの定義

AGI:多くの種類の知的な仕事を、人間並み以上の水準で、自律的に遂行できるAI。

RSI:AIが自らを、または後継のAIを改善し、改善されたAIがさらに次の改善を行う仕組み。

RSIの定義

RSI(Recursive Self-Improvement)は「再帰的自己改善」と訳される。定義の議論はAGIほど多くなく、違いは「どこからをRSIと呼ぶか」にある。特に、人間が安全弁や採点者として介在する型と、完全自律型とに分かれる。OpenAIはAI研究開発の自動化、Anthropicは後継モデルの自律開発、Sakana AIは自分自身のコード改善を重視している。

発想の源は、1965年にI.J.グッド氏が提唱した「知能爆発」である。「Recursive Self-Improvement」という表現は、2002年のユドコウスキー氏の論文草稿に登場する。

AGIとRSIの関係

AGIはAIの能力の幅・水準・自律性に着目した概念であり、RSIは能力向上の仕組みである。両者は別の概念で、どちらが先に実現するかも決まっていない。ただし、AIが「AIを研究・開発する能力」で人間を上回れば、能力向上そのものがAIによって加速される可能性が生まれる。Google DeepMindも2026年の論文で、AGIからASIへ進む経路の1つに「recursive improvement」を挙げている(論文)。

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02AGIの現状

AGIの評価方法と限界

現在、単一の「AGI判定試験」は存在しない。①高度な知識・推論、②未知問題への適応、③実務遂行、④長時間の自律遂行という複数の軸を、ベンチマークの組み合わせで見るのが近年の流れである。

評価軸問いたいこと代表的な評価
能力の高さ難しい問題を人間以上に解けるかHLE、GPQA
汎用性・未知への適応見たことのない問題に対応できるかARC-AGI-2
自律性指示なしで探索・計画・修正できるかARC-AGI-3、GAIA
実際の仕事現実の仕事を人間並みに遂行できるかGDPval、SWE-bench、METR

ただし、現在のAGI評価には次のような限界が指摘されている。

先端AIの評価事例

モデルARC-AGI-2自律・エージェントHLE(tools)特徴
GPT-6 Astra95.0%ARC-AGI-3:62.7%(標準)/最大99.9%(Provider Adapter)57.2%ハーネスにより性能が大きく変わる
Claude Fable 5.190.0%OSWorld 2.1:80.7%(partial)65.0%専門能力・エージェント能力が高い
Claude Opus 5.593.3%Terminal-Bench 4.0:66.4%67.7%知識・実務・エージェントで強い。METR評価ではAI研究の完全自動化には未到達
Gemini 3.8 Flash89.2%ARC-AGI-3:10.4%(標準)/35.0%(Provider Adapter)54.9%(HLE-Verified)静的推論は強いが、新規環境での自律行動との落差が大きい

注目はAstraである。ARC Prize Foundationは、AstraがARC-AGI-3の96%のレベルで人間の中央値より少ない行動数で解いたとして、実質的に「human parity」に達したと評価した(ARC Prize)。冒頭の「AGI時代に入った」という発言の背景には、この評価がある。

ただし、同じAstraでも標準ハーネスでは62.7%、Provider Adapterでは99.9%と差が大きい。つまり99.9%はモデル単体ではなく、「Astra+記憶・状態管理+ハーネス」というシステム全体の性能なのである。またHLEではAstraはClaudeを下回るが、これはARC-AGIが未知への適応、HLEが専門知識・推論と、測るものが異なるためである。すべてのベンチマークで1位の万能モデルは存在しない。

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03RSIの現状

RSIの達成段階

RSIにはベンチマークがないため、人間の介入度合いから分けて検討する。段階0の「AI支援」はRSIではなく、段階1~5がRSIの5段階である。

段階状態人間の役割
0 AI支援AIがコード作成・分析など研究を補助人間が研究を主導
1 研究タスク自動化数時間~数日の明確な研究タスクをAIが実行課題を与え、評価
2 AI主導の研究AIが研究工程の大部分を自律遂行研究方向・採否を決定
3 限定的RSIAIが自分自身を改善し、改善版が次の改善を行う環境・評価基準を設定
4 後継AI開発AIがより高性能なモデルを設計・訓練・評価監督・承認が中心
5 完全自律RSI目標設定から後継AI開発まで自律し、改善能力自体も向上改善ループに不要

研究・実験事例

研究・組織実現していること段階
OpenAI
Research Acceleration
熟練研究者なら数日かかる研究タスクを実行する「自動研究インターン」1~2
Anthropic
R&D Automation Index
ClaudeがAI R&Dの26%を主導し、90%以上で協働以上。完全自律は0%2
Sakana AI
AI Scientist
仮説生成・実験・論文執筆・査読を自動化2
Sakana AI
Darwin Gödel Machine
エージェントが自分のコードを書き換え、SWE-benchの性能を大幅に改善3
AIDE2AI研究エージェントが自分のコードを改良し、改善版が次を改良。8日間で7世代連続改善3
清華大学系
The Last AI Built by Humans
RSIへの5段階ロードマップを提示。「改善能力そのものの改善」を最終段階に設定理論上3→5

OpenAI:2026年9月時点で、熟練研究者なら数日かかる明確な研究タスクを実行できる「automated research intern」には到達した。しかし研究の優先順位や採否は依然として人間が決めている(OpenAI)。

Anthropic:2026年8月時点で、Claudeが「主導」するAI研究開発は26%、人間と「協働」以上のものは90%以上である。一方、完全自律で行われているAI研究開発はまだない(Anthropic)。

Sakana AI:Darwin Gödel Machineは、エージェントが自らのコードベースを書き換え、性能のよい派生型を残していく仕組みである。同社によれば、SWE-benchの性能はベースラインから30ポイント向上した。次の構想は、Agent-Native ModelがAI Scientistとして研究し、より良いAgent-Native Modelを作り、新しいAI Scientistがまた研究する、というループである。実現すれば段階4に近づく(RSI Lab)。

AIDE2:AI1が自分を改善してAI2になり、AI2が自分を改善してAI3になるという再帰構造が実現している点で注目される。限定された環境では、RSIの基本ループが実証されたといえる(AIDE2論文)。

26%
ClaudeがAI研究開発を主導する割合
Anthropic(2026年8月時点)
3.1
人間研究者1日あたりのAIエージェント総作業時間(agent-workdays)
OpenAI
7世代
AIDE2が8日間で達成した連続改善
AIDE2研究
0%
完全自律で行われているAI研究開発の割合
Anthropic

OpenAIは、アライメントされた「完全なRSI」に安全に到達する方法はまだ分かっていないとも明記している(OpenAI)。このように、AIによるAI研究はすでに大規模に実用化され、限定された環境ではRSIの基本ループも実証されている。しかし、AIが次世代の基盤モデルを一から自律開発し、その後継がさらに次を作る「完全なRSI」はまだ実現していない、というのが現状である。

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04その他の論点

エージェントやハーネスとの関係

AGIの定義が「多くの知的な仕事を人間並み以上に自律遂行する」であれば、AGIはLLM単体ではなく、高度なAIエージェントとして実現する可能性が高い。RSIも「自分を改良するモデル」より、AI研究エージェントが研究・実験・評価を繰り返す形の方が現実的である。

ポイント:モデルを変えずハーネスだけで、WeaveBenchが51.8%から80.7%に改善した例がある(LongHorizon-Harness)。AGIは「モデル+ハーネス」のシステムとして成立し、AIが自分のハーネスを改善することもRSIの一形態になり得る。ハーネスの詳細は別レポートを参照されたい。

知能爆発とボトルネック

2026年9月、「知能爆発」が再び注目された。AI研究開発の自動化でAI開発が加速し、数年分の進歩が数か月・数週間に圧縮されるという考え方である(論文)。ただしRSIは知能爆発と同義ではない。METRは、現在の証拠では自己持続的な急加速は確認できないが、大幅な加速も排除できないとしている。加速の頭打ち要因としては、データ、学習・推論用の計算資源、実験時間、電力などが挙げられる(METR)。

アライメントと人間の役割

AIがAIを改善するようになると、人間がどの段階まで意味のある監督を続けられるかが問題となる。OpenAIは、自動化されたAI研究者を作る一方で、人間が自己改善ループの一部であり続けることを目標に掲げている。AI自身が「改善した」と判定する自己肯定的な評価ループやmodel collapseの懸念もあり、最終的な評価者として人間が残る可能性はある。

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まとめポイント

AGIは「モデル+ハーネス」のシステムとして、一部の評価では人間並みに達しつつある。RSIは限定環境で実証されたが、完全自律型はまだ実現していない。

おわりに

後から振り返ると、2026年はAGIとRSIが「未来予測」から「現実の技術課題」へ移った年として記憶されるのかもしれない。今後も、AGIの評価方法、完全自律型RSIの実現プロセス、知能爆発などに注目したい。AI研究開発自体をAIが担う時代には、人間の役割は研究をする人から「研究の目的を決め、AIを監督する人」へ変わるのかもしれない。


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