RPA(Robotic Process Automation)について知りたいという方向けに、RPAとは何をしてくれるもので、導入する場合にどのようなメリットや課題があるのかを、傾向や対策、具体的な事例をまじえながらわかりやすく紹介します。
RPAは「Robotic Process Automation」の略で、PCを用いて行う一連の事務作業を自動化する技術です。「ロボティック」という名前から想像できるように、RPAは「人間が行っている事務作業をロボットにかわってもらおう」という考え方から誕生しました。
RPAを活用すれば、単調な繰り返し作業、定期的に発生する業務、深夜などの人間が休んでいる時間に済ませておきたい手続きなどを自動化できます。
たとえば「朝9時になったら受注システムから注文の一覧を取得して、Excelを開いて発注伝票を作成し、メールソフトを開いて関係者に送信する」という操作も自動化できます。人間に代わってソフトウェアのロボットがPC上でマウスやキーボードを操作して、毎朝9時に自動で確実にその作業をやってくれるようになります。
RPAは具体的にどんな仕事をやってくれるのでしょうか。ここでは、RPAのロボットが働く様子を、部門ごとのよくあるシチュエーションを取り上げながら、操作の手順や流れがわかるように紹介します。
RPAを使って広告代理店でSEOレポートを作成する例を考えてみます。
まず、ロボットは自社で使用しているSEOツールにログインして、指定されたキーワードの検索順位データを抽出し、CSVファイルとして保存します。SEOツールだけでなく、Webサイトのアクセス解析ツールから訪問者数や、ほかのサイトが自社のサイトにリンクを張っている数などのデータも取り出すことができます。
得られたCSVファイルをExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトで開いて、特定の項目を抽出してレポートを作成します。ロボットは表計算ソフトを操作してデータをグラフやチャートに変換するなど、レポートを見やすい形でまとめるのが得意です。
完成したSEOレポートをメールやファイル共有ソフトを使って関係者に自動で配布します。
続いて、経理部門で請求書を発行する例を見てみましょう。
ロボットは企業のデータベースやERPシステムにログインして、請求書の作成に必要な顧客情報や取引明細、売買金額などのデータを抽出し、CSVファイルやExcelファイルとして保存します。
請求書の作成では、あらかじめ用意した企業ごとの請求書テンプレートを使用します。ロボットは抽出した請求に関連するデータを請求書テンプレートに入力して請求書を完成させます。そして、完成した請求書をPDFファイルに変換して保存します。
請求書のPDFファイルを顧客ごとにメールで送付します。メールには、テンプレートを利用するなどして適切な件名と本文を含めるようにします。その他、発行履歴を経理部門や管理部門に報告するといった作業もRPAで自動化できます。
最後にカスタマーサポート部門です。顧客からの問い合わせ対応もRPAで自動化することもできます。
ロボットは企業のメールシステムやカスタマーサポートツールにログインして、新しい問い合わせメールを見つけ、その内容を読み取ります。そして、RPAツールに備わるキーワード抽出機能などを利用して問い合わせの内容を解析し、問い合わせの種類や対象製品などといった事前に定義されたカテゴリごとに分類します。
それぞれの問い合わせ内容に基づいて、FAQデータベースを検索して回答を抽出します。FAQデータベースに適切な回答が見つからなかった場合には、人間のサポート担当者に通知を送って追加の対応を依頼します。
回答が見つかった場合には、ロボットはその回答を使って返信メールを作成し、問い合わせた顧客に送信します。人間による対応となった場合には、必要に応じて、回答に時間がかかる可能性があるなどの旨のメールを顧客に送信します。
対応が完了したら、ロボットは問い合わせの内容やその対応状況のログをデータベースなどに記録します。対応状況やパフォーマンスの分析に役立てるために、定期的に問い合わせ内容のレポートを作成することもできます。
RPAは企業内の様々な部門において、その業務の自動化に幅広く活用できます。もちろん、RPAが得意とする作業は前述したものだけに留まりません。
ここでは、よくある自動化できる作業を以下のタイプに分類して紹介します。応用がしやすい作業を取り上げたので、日頃行っている仕事と比べながら、RPAに任せられそうなものがないか検討してみてください。
まず、データの入力や転記に関連した作業は、RPAが最も得意とする作業のひとつです。RPAのロボットはあらかじめプログラムされた手順に従って繰り返し作業を実行するため、データ入力や転記のようなルーチンワークに適しています。
また、手動でのデータ入力や転記作業ではヒューマンエラーが発生しやすいですが、ロボットはプログラム通りに正確に動作するので、エラーの発生を大幅に削減できるという強みもあります。
RPAが得意とするデータ入力やデータ転記作業の具体的な例としては、次のようなものが考えられます。
作業例 | 自動化できる内容 |
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顧客情報のシステム登録 | データベースやCRM(Customer Relationship Management)システムへの顧客情報の登録作業をRPAで自動化。手動で入力するのに比べて迅速に大量の顧客情報を登録できることに加えて、入力ミスを防いでデータの精度や一貫性の確保にもつながる。 |
営業リストの取りまとめ | RPAと営業支援(SFA)ツールを組み合わせることで、営業リストの作成や更新、リードデータの収集と整理などの作業を自動化。複数の情報源から営業リストを統合したり、最新の情報を収集してリストを更新したりといった作業も自動化できるので、営業活動の効率と精度を向上できる。 |
AI OCRとの併用 | AI OCRを使えば、紙で受け取った手書きの申込書やアンケート回答、FAXで送られてきた発注書なども、スキャンして簡単にテキスト化できる。このAI OCRとRPAを組み合わせて利用することで、自動化できるデータ入力業務の範囲が大きく拡大できる。 |
RPAのロボットは明確なルールや条件に基づいて作業を進めることが得意。データのチェックや管理は、特定の基準やルールに従って行う性質の作業が多いため、まさにロボットの得意分野といえます。
また、ロボットは同じ手順を繰り返し一貫して実行できるので、データチェックや管理において一定の品質を確保することにも役立ちます。24時間365日稼働できることから、リアルタイムな監視にも応用できます。
RPAが得意とするデータのチェックや管理業務の具体的な例としては、次のようなものが考えられます。
作業例 | 自動化できる内容 |
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経費支払チェック | 申請された経費申請書を項目に沿って自動で分類したり、申請内容を既定のルールや基準に基づいて自動でチェックしたりできる。これによって経費処理のプロセスが効率化されて迅速な支払いが可能になる。また見落としやミスを減らせるため不正の防止にもつながる。 |
システムログの監視と分析 | 24時間365日休むことなくシステムログを監視できるので、異常やエラーを検出したら即時にアラートを発することが可能。ログデータを自動的に収集して分析し、定期的にレポートを作成すれば、パフォーマンスやセキュリティに関する問題の早期発見と迅速な対応を実現できる。 |
レポート作成とデータ分析も、RPAによる自動化が成功しやすい業務です。
RPAは、ERPシステム、CRMシステム、POSシステムなどで管理された様々なデータベース、Excel、Googleスプレッドシートなど表計算ソフト、Webサイトなど多岐にわたるデータソースから必要なデータを自動で収集できます。
そして収集した大量のデータを、レポート作成やデータ分析に活用しやすくなるように、データを整理・整形しながら、特定の条件で分類するといったタスクも高速に実行。高速なレポート作成やデータ分析が可能になるので、ビジネス上の迅速な意思決定につながります。
RPAが得意とするレポート作成やデータ分析業務の具体的な例としては、次のようなものが考えられます。
作業例 | 自動化できる内容 |
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週次・月次報告書の作成と報告 | RPAを使って週末や月末など定期的に販売データの分析を行い、その都度報告書を自動作成。データ収集と分析だけでなく、設定次第では週次報告書や月次報告書の作成まで自動化できる。完成した報告書は関係者にメールで自動送信すれば、報告業務までRPAで完結できる。 |
Googleアナリティクス分析とレポート作成 | RPAを使ってGoogleアナリティクスからWebサイトのアクセスデータを自動で収集し、データの分析やトレンドを特定して、カスタマイズされたレポートを自動生成・送信することが可能。これにより、Webサイトのパフォーマンスを効率的に監視・改善を行える。 |
顧客満足度調査の自動化 | Googleフォームなどアンケートフォームの自動作成や配信、回答データの集計などの機能を活用して、顧客満足度調査を自動化。分析レポートの作成までのプロセスを自動化できるので、極めて迅速に顧客のフィードバックを把握することが可能。 |
上記のほかにもRPAが得意な作業はまだまだあります。たとえば、次に挙げるような作業もRPAで効果的に自動化できるでしょう。
作業例 | 自動化できる内容 |
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マーケティングキャンペーンの自動管理 | 様々なチャネルからマーケティングキャンペーンに関するデータを自動で収集・分析して、精度の高いターゲットリストを作成。メールの配信と効果測定まで自動化すれば、マーケティング活動効果の最大化とリソースの最適化を実現できる。 |
人事の勤怠管理・給与計算 | 勤怠管理システムとRPAツールを連携すれば、指定期間の勤怠データを自動で取得し、勤怠記録の整合性チェック、勤怠集計表の作成などを効率化。給与計算ソフトと連携すれば、勤怠データの自動受け渡しも可能。 |
法務文書の管理 | 法務部門においては、契約書のテンプレート入力や、各種文書のPDF化と保存・管理、契約更新通知の自動送信などといった業務にRPAを利用できる。 |
研修プログラムの管理 | 研修スケジュールの作成や、参加者の登録の受付、参加者への連絡、研修への参加状況や進捗の管理などを自動化すれば、研修運営の負担の大幅な軽減につながる。 |
社内コミュニケーションの自動化 | 定期的なミーティングスケジュールの作成と通知、社内での連絡事項の配信、重要なアナウンスに関するフォローアップやリマインダーの送信、従業員満足度調査の実施と結果分析などといった業務がRPAで自動化できる。 |
これまで人の手によって十分にこなせてきた作業に対して、なぜ最近になって自動化が必要だといわれ、RPAに注目が集まるようになったのでしょうか。その背景にはいくつかの要因があります。
日本をはじめとする多くの国において、少子高齢化による労働人口の減少が深刻な問題になっています。
人間が行っていた様々な事務作業をRPAで自動化できれば、限られた人材で効率的に業務を行えるようになるため、労働力の不足を補えることができます。
労働人口減少への対策として、政府では企業による働き方改革の実施を推奨しており、その一環として業務の効率化による従業員の負担軽減や長時間労働の解消が求められています。RPAを導入すれば、人間は単純作業をやる必要がなくなり、その分の時間をよりクリエイティブな業務に使うことができます。
単純な事務作業の中には、在庫の集計や売上の精算処理などといった、休日や深夜など通常業務が行われていないタイミングで実施する方が効率の面から都合がいいものもあります。RPAのロボットであれば、時間に縛られることなく24時間働くことができるという強みがあり、そのような事務作業を担当させるのに適しています。
企業が市場での競争力を維持・向上させるためには、従業員1人あたりの労働生産性をどこまで上げることができるかが鍵になります。そして、労働生産性を上げるためには、反復作業に代表される付加価値の低い業務をいかに効率よく行うのかが重要です。
RPAの導入によってそのような業務を自動化し、迅速かつ正確に作業を行えるようになれば、生産性を向上させて市場における競争力を高めることができます。
RPAはどのような仕組みで動作するのでしょうか。
RPAのロボットは、人間がマウスやキーボードを使って行うのと同じようにPCを操作します。たとえば、「Excelを起動してCSVファイルを読み込み、B列の値の合計をO列5行目のセルに記入する」といった具合に指示を与えておくと、ロボットはその通りで正確に処理を実行します。
指示を与える際、ロボットの内部では、PCの表示画面を認識したり、起動するソフトウェアの入力フィールド(テキスト入力欄やボタンなど)、ファイル構造、ソースコードなどを解析したりして、一連の動作を覚えます。
ロボットに伝える一連の指示は「シナリオ」と呼ばれ、ほかにも「スクリプト」や「レシピ」、「フローチャート」といった呼称もあります。シナリオの作り方はRPAツールによって様々な方法がありますが、いずれもプログラミングなどの専門的な知識は必要ありません。
シナリオは、ExcelやPowerPointなどのソフトウェアを使うのと同様の感覚で、画面の指示に従って操作をするだけで作成や修正ができます。また、「Excelで作ったファイルをメールで送る」といったように、複数のアプリやツールをまたいで連携するシナリオも簡単に作成できます。
ただし、RPAのロボットはあくまでもPC上で動くソフトウェアなので、PCを用いた作業しか行うことができません。「紙の申込書をスキャンしてテキスト化し、Excelに読み込ませる」といった作業であれば、最初のスキャン作業は人間が行う必要があります。また、RPAのロボットはあらかじめ決められた通りにしか動かないので、ルール化されていない業務には適用できないという点にも注意が必要です。
ちなみに、RPAツールは基本的に導入形態によって「クラウド型」「オンプレミス型」「デスクトップ型」の3つに大きく分けられます。
RPAツールには、クラウドサービスのように常時インターネットに接続してブラウザとも連携できるものもあれば、セキュリティの観点から社内システムやスタンドアローンなど利用範囲を限定できるものもあり様々。自社に最適なツールを選定できるよう、詳細を知りたい方は、「RPAツール比較14選!種類・料金相場・活用のコツや選び方」を参照ください。
RPAで自動化できる業務や背景、そして動作の基本的な仕組みも理解できたところで、次はRPAの長所と短所を解説します。実際の導入にあたっては、長所と短所をしっかりと把握して、どのような用途であれば効果が得られるのかを見極めることが重要です。
RPAの主な長所としては次のようなものを挙げることができます。
RPAはソフトウェアのロボットなので、人間のように休む必要がなく、24時間365日どんなときでも仕事を続けてくれます。
あらかじめ時間や条件を指定してロボットを起動するように設定できるので、深夜や休日などの従業員が会社にいない時間でも作業を始められます。たとえば、請求書を作成するというタスクを月末締日の夜中に実行するように設定しておけば、次の日に出社したときには完成した請求書を手にすることができます。
人手が不足しているときに、新しく従業員を採用して実務ができるようになるまで教育するのは多くの手間とコストがかかります。RPAでは、一度作業内容を登録してしまえば、同じ作業をするロボットをたくさん同時に動かすことができるので、新規採用や教育のコストを大幅に軽減できます。
人間であれば、どんなに慣れた作業でも入力ミスや計算ミスなどといった些細なミスをしてしまうもの。それに対してRPAはプログラムに基づいて確実に業務を実行するので、人間のような単純なミスはなく、疲れることもないので、集中力の低下によるミスも起こりません。
RPAはプログラムに基づいて動作するロボットですが、RPAを汎用的に利用するための機能が備わったRPAツールを利用すればロボットを作るのにプログラミングの知識は必要ありません。そのため、経理部門や商品管理部門など、非IT部門の担当者でも利用しやすいというメリットがあります。
なお、RPAツールの中にはプログラミングによって、標準的な業務だけでなく、より複雑な業務も自動化できるツールもあります。そのようなRPAツールでは、自社の業務に特化した機能拡張も可能なため、より多様な業務の自動化を実現できます。
続いて、RPAの短所についても考えてみましょう。
まず、自動化するべき業務とそうでない業務の切り分けなど、会社ごとに導入ルールの設定が必要となるため、初期導入時にはそれなりの手間がかかります。自動化しても効率化できない種類の業務や、誤動作が起きやすい業務などもあるため、RPAツールの特性をよく理解した上でルールを決める必要があります。
RPAは「こういう時はこうする」というルールが定まった作業しか実施できません。そのため、手順が明確に決まっていない業務、手順の変更が頻繁に発生する業務、人間による判断や責任が伴う業務には向いていません。臨機応変な対応ができないため、急なアクシデントにも弱いです。
たとえば、決められた価格や発注数にしたがって発注書を作成するような作業は得意ですが、発注数を決めること自体は色々な条件を複合的に考慮した上で決断しなければならないため、RPAには向いていません。
RPAのロボットはPC上の特定の画面や入力フィールドに依存して動作するので、使用するアプリケーションのインターフェースが変更された場合にロボットの修正が必要になります。そのため、頻繁にインターフェースや画面構成が変わるアプリケーションでは、メンテナンスや変更管理のコストが増加する恐れがあります。
RPAと似た方式の技術としては、マクロやAIが挙げられます。
マクロは、ExcelやWordなどの特定のアプリ内で実行される自動化用のプログラムです。マクロはそのアプリの中でしか動作しないのに対して、RPAはアプリやシステムの垣根を越えて、連携して作業ができるため、より広範な業務の自動化が可能です。
AIは、学習データに基づいてプログラムが自分で判断や予測を行う技術です。機械学習やディープラーニングなど様々な方式がありますが、いずれも人間のように「自分で予測や判断ができる」という点が大きな特徴で、パターン認識や複雑な意思決定を得意としています。
一方で、RPAは決められた通りに動くロボットであり、自分で判断することはありません。その代わりに、勝手な動きをせずにいつでも確実に同じ処理を実行してくれます。
近年、AI技術の急速な発展によって、様々な業務がAIでもっと効率化できるのではないかという期待が高まっています。特にChatGPTやGeminiなどの「生成AI」と呼ばれる種類の技術には、Microsoftをはじめとする多くの企業が力を入れており、その活用も進んでいます。
このことから、「今後、AIとRPAのどちらを導入すればよいか?」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。確かにAIには大きな可能性が秘められていますが、RPAにはAIにはないメリットもあります。ここでは、AIと比較した場合に、業務の自動化においてRPAにどんなメリットがあるのかを解説します。
まず先に、AIの特長について確認しておきましょう。AIは大量のデータを学習することによって、人間のように自分で判断して結果を回答してくれる技術です。学習データに基づいた複雑な回答や、未来の予測、高度な分析ができる点が大きな特長です。また、人間が使う日常会話(自然言語)を用いたコミュニケーション、画像や音声の認識・分析、そして文章生成や画像生成といった創造性の高い作業を実行できるのも強みです。
PCでの業務を自動化したいと考えた際、前述したRPAでできることは、概ねAIでも実現できます。RPAが苦手としている独自での判断が必要な業務や、状況に応じた柔軟な対応が必要な業務も、AIであれば自動化できる可能性があります。
AIは業務の自動化においても非常に強力なツールではありますが、実用に向けては課題も残されており、特に情報漏えいや著作権侵害のリスクがあることに注意しなければなりません。
ChatGPTなどのAIサービスでは、ユーザーが入力した質問の内容が、AIの精度を高めるための学習に再利用されることがあります。もし機密情報や著作物を含んだ内容を入力してしまった場合には、意図せずにその情報が外部に流出・再利用される危険性があります。
RPAツールでは、AIと比べて学習データに関わる情報漏えいのリスクを回避できます。RPAツールにはスタンドアローンで動作する製品も多いので、企業の情報資産の安全性を確保するという観点でも、選択肢の幅が広いというメリットがあります。したがって現状では、業務の自動化においてRPAは依然として有力な選択肢だといえます。
AIの学習データに関する問題は現在も世界中で多くの議論や裁判が行われている最中であり、明確な結論は出ていないので、業務でのAIツールの導入には特に慎重になる必要があるでしょう。
もちろん、将来的には現在議論されている問題や懸念が解消される可能性もあり、最近では「NotebookLM」のように学習データを外部に再利用しないよう配慮したAIサービスも登場しています。また、RPAツール自体がAIの機能を統合して発展を遂げることも考えられるので、AIの発展には引き続き注目しておくことをおすすめします。
ここまで解説してきたように、RPAには得意・不得意があり、使い方次第では期待通りの成果が得られないこともあります。そこで、RPAを効果的に運用するためには、次に挙げるような要素を考慮して適切に実施することが重要です。
RPAツールで実現できるのは、日常的に繰り返し行っている業務を自動化して生産性を向上させることだという点を強く意識しましょう。その上で、自社のどの業務を自動化したいのかを洗い出し、その業務がRPAで代替するのに適しているのかどうかを検討します。そして、自動化する範囲や、どのような効果を期待しているのかを明確に設定することが重要です。
RPAの導入によって、現場の担当者はそれまでの業務のやり方を大きく変更する必要があるかもしれません。従業員の理解と協力を得るためには、適切なトレーニングやサポートを提供するなどのフォローを行うことが重要です。導入後も継続的にサポートを行い、問題の解決や改善のための体制を整えるようにしましょう。
RPAの導入時に起こりがちな課題について事前に把握しておけば、トラブルの発生を未然に防ぎ、実際に問題が発生した場合にもすばやく対処できます。RPAの導入でよくある課題としては次のようなものがあります。
導入したRPAツールを現場の担当者がうまく使いこなせず、期待通りの効果が得られなかったり、かえって業務プロセスを複雑にしてしまったりすることがあります。原因としては、導入したRPAツールが「現場担当者のITへの習熟度に合っていない」、「業務で必要としている機能にツール側が対応していない」といったケースが考えられます。トップダウンでRPAの導入を進めた場合はこの状態に陥りがちなので注意が必要です。
RPAのロボットの作成を情報システム部門が担当するケースはよくあります。その場合に陥りがちなのが、すべての作業を情報システム部門に丸投げしてしまうという状況です。これだと、「実務の手順がロボットを作成する人に正しく伝わらない」「業務プロセスに変更がある度に情報システム部門にロボットの修正依頼をしなければならない」などの問題が発生します。
業務について最も把握しているのは現場の担当者なので、ロボットへの指示出しも現場担当者が行えるようになるのが最善です。そのために、RPAの活用についても現場が主導できる体制を整えることが重要です。
RPAによる自動化では、対象の業務に対して一度ロボットを作ってしまえば、後は実際の業務プロセスに関する知識がない人でも運用できます。「決められた時間に決められた手順でこのロボットを実行する」ということさえ知っていれば、後はロボットが自動でやってくれるからです。
しかし、業務プロセスの知識を持たないままで運用を続けた場合、その業務の作業内容がブラックボックスになり、後から業務プロセスを修正することが困難になってしまう危険があります。特にロボットを作成した人の転職・退職を機に陥りがちな危険であり、RPAによる自動化に成功したからといっても、業務プロセスに関する情報共有を怠ってはいけません。
上記のよくある課題への対策として、RPAの効果やロボットの実用性などを検証するための管理体制を継続的に整備することが挙げられます。
具体的には、社内に専任のRPA導入・運用チームを作り、責任者を明確にした上で、業務部門における導入や運用のためのガイドラインを策定することが有効です。また、定期的にRPAの運用状況や導入効果の評価を行い、必要に応じて自動化プロセスの改善を行うことも大切です。
最後に、実際にRPAツールを導入して成果を上げている具体的な事例を確認してみましょう。ここでは、主要な3つの業務について、それぞれRPA導入の成功事例を紹介します。
三菱UFJ信託銀行株式会社の経営企画部では、総勘定元帳を管理する経理システムへの打鍵(登録)業務に「SS&C Blue Prism(Blue Prism株式会社)」を導入して自動化を実施しました。
従来は作業になれた熟練の社員が担当し、2〜3名体制で1〜2週間の期間を必要としていましたが、RPA導入後は入力の手間が10分の1以下に削減され、1名数日体制までの省力化に成功。人の手による打鍵が不要になり入力ミスがなくなったことに加えて、すべての作業ログが記録されるようになったことから改ざんのリスクも低減しました(出典)。
KDDI株式会社では、購買本部における発注申請内容のチェック業務に「UniPath(UiPath株式会社)」を導入。社内各事業部から申請される購買依頼の内容を見積書と突き合わせてチェックした後、発注システムに投入して決済権者の承認に回すという一連の作業を、AI OCRとRPAの組み合わせにより自動化しました。
RPAの導入後、購買本部では1カ月あたり約1000件の発注申請のチェックが自動で行われるようになり、ソリューション事業に関わる発注業務の作業時間は1か月あたり約17%も削減。ヒューマンエラーの懸念がないことから、申請の承認業務の負担軽減を実現しました(出典)。
化粧品や健康食品等の商品を複数の総合ECサイトに出店・販売している株式会社SOLIA。商品の価格変更が発生した場合のECサイトの更新業務に「RoboTANGO(スターティアレイズ株式会社)」を導入して自動化を実施しました。
従来は価格変更が発生した場合、複数のECサイトにおいて管理画面から顧客名や商品番号で検索してひとつずつ更新を行う必要があり、従来は約3,200件の変更作業に5名で約160時間を費やしていました。この作業をRPAで自動化をしたことによって、人の手を使うことなく24時間程度で変更を完了。生産性の大幅な向上を実現しました(出典)。
最後に、RPAに関連した「よくある質問」に回答します。ご自身の疑問点を解消できているか、チェックしてみてください。
RPAとは、PCを用いて行う一連の事務作業を、ソフトウェアのロボットを使って自動化する技術。自動化したい業務ごとにソフトウェアのロボットに手順を覚えさせれば、後はロボットがその手順通りに作業を進めてくれます。データの入力や転記、レポート作成などといった日常業務を迅速かつ正確に行えるようになるため、生産性の向上やヒューマンエラーの削減といった効果があります。
RPAでは、PCを使って行う様々な業務を自動化できます。RPAで自動化できる作業の一例としては、データの入力や転記、請求書作成、顧客情報の登録や更新、経費精算、レポート作成、在庫管理、勤怠管理、メールの一斉送信、問い合わせ対応などがあります。特に、手順が明確に決まっている業務や、同じ処理の繰り返しが伴う業務、大量のデータ処理が必要な業務などでは高い効果が期待できます。
RPAは、あらかじめ手順を決めてルールベースで行う業務を自動化するための技術です。それに対してAIは、大量のデータをもとにして学習を行い、パターン認識や予測、自然言語処理などといった自分での判断を伴う高度なタスクを実行できる技術です。RPAは作業の自動化に特化しており、AIは複雑なデータ分析や意思決定の支援などを得意としています。
RPAは、手順が明確に決まっていない業務や、手順の変更が頻繁に発生する業務、人間による判断や責任が伴う業務が苦手です。臨機応変な対応ができないため、急なアクシデントにも対応できません。更に、システムの変更に弱く、使用するアプリケーションのアップデートに伴ってロボットの修正が必要になる場合があります。
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