最終更新日:2021-06-09
通常のカメラで撮影した映像や静止画から、AIによって姿勢や動作の分析を行うAI姿勢推定サービスはスポーツやフィットネス、ヘルスケアなどの分野で活用されています。モーションキャプチャ用マーカーのような特別な道具を使わずに、高精度な姿勢の検知・解析を可能にするサービスをご紹介します。
姿勢推定とは、人体の関節や目鼻といった特徴点から座標データを検出し、人間の姿勢を可視化する技術です。AIを使った姿勢推定サービスでは、ディープラーニングによって衣服の上からでも特徴点を検出することができるので、これまで視覚など人間の感覚に頼っていた領域で、定量的なデータに基づいたコーチングやレポーティングが可能になります。
AIによるディープラーニングを使用するので、モーションキャプチャ用のマーカーや慣性センサーといった特殊な機材や専門知識はほとんど不要。Webカメラやカメラ付きタブレットだけで骨格情報を検出できます。
AI姿勢推定サービスを使うことで、これまで目視に頼るしかなかった人体の姿勢や動きを、数値化して定量的に観測できるようになります。
スポーツの分野なら、腕や足の位置、動作の角度を理想的なフォームと比較・評価することで、適切なフォーム指導が可能になるでしょう。そのほかにも、スーパーマーケットなどで人の動きを観測したデータをマーケティングに活用したり、通常のカメラよりも高精度な動作認識力を活かしてセキュリティや子どもの見守りに役立てたりもできます。
撮影したデータを蓄積、分析することで、サービスの最適化・均質化が叶えられるのも、AI姿勢推定サービスのメリットです。
AI姿勢推定サービスの提供方法は主に2つ。タイプごとの特徴を解説します。
AI姿勢推定の「仕組み」を提供する、アプリやシステムを作るSI事業者向けのタイプ。Web APIで自社サービスやアプリにAI姿勢推定機能を組み込むことができる「ユーザーローカル 姿勢推定AI(株式会社ユーザーローカル)」や、SDKとしてAI姿勢推定技術を提供する「VisionPose」などがあります。
学習データ次第で、スポーツやエンタメからマーケティングなど、幅広い分野での活用が可能。また、「AnyMotion(株式会NTTPCコミュニケーションズ)」のように、アプリケーション側で解析結果への評価・判定を行い、エンドユーザーへフィードバックができるサービスも。
特定の用途に特化したアプリやシステムとして、パッケージ化して提供されるタイプ。姿勢の良し悪しを見える化できることから主に鍼灸整体院・接骨院やデイサービスといったヘルスケアの分野などで活用されています。たとえば、「シセイカルテ」のように施術効果を数値化して分析データを元に施術メニューを提案できるサービスが代表的です。
また、「AIによる人物姿勢・動作認識ソリューション」のように目的に合わせた姿勢・動作認識の自動化に優れ、製造現場の業務改善や安全管理に特化したサービスもあります。
AI姿勢推定サービスは、用途・目的に合わせて選ぶのがポイント。5つの用途ごとの選び方について具体的な事例も合わせて紹介します。
用途を限定せず、個別の状況に合わせて姿勢推定AIの技術を実装したい場合には、APIやSDKでサービス提供をしているタイプが適しています。顧客の要望を聞いたり、自社が作りたいと思っているサービスに合わせたりして、AI姿勢推定の技術を組み込んだシステムやアプリの開発ができます。
たとえば、「VisionPose」では、姿勢推定AIエンジンを応用して、子供の姿勢推定や行動解析も可能。子供の昼寝中の「うつぶせ寝」の検知や、触ったら危ない箇所や、入ると危険な範囲を画面上で設定し、特定の体の部位が入ったらアラートで知らせるなど、保育園や幼稚園での子供の見守りシステムとして活用されています。また、リハビリのためのロボットを装着した状態でも骨格情報の検出が可能なため、自社製品の精度や利便性向上といった課題解決にも有効です。
経験豊富な指導者の不足、指導後の改善が見えにくいといった課題があるスポーツ指導の現場には、フォームの解析や可動域の測定ができるサービスがぴったり。
「Sportip Pro」なら上記の機能に加えて、トレーニングメニューの自動作成や、SNSとの連携によるオンライン指導なども可能です。アプリを使って受講者に動画を送信してもらい、一緒に動画を見ながら解析したり、動きの添削をしたりといった指導ができます。
体の歪みの発見・分析に特化したサービスはヘルスケア事業に適しています。治療による改善点を可視化することができるので、顧客満足度アップやリピーターの創出が期待できるほか、技術者不足やスキルのばらつきといった現場の課題解決にも役立つでしょう。現場での活用を想定し、準備から解析まで数分で完了できる点も特長です。
「Posen」のように、電子カルテシステムを搭載したものも便利。問診記録で過去の診断結果を踏まえた上で、管理画面からLINEやメール送信もできるため、アフターフォローや定期的な診断への誘導で継続的な改善も期待できます。
技術の継承、危機管理、作業効率の改善といった製造現場での課題解決に役立つのが、「AIによる人物姿勢・動作認識ソリューション」のような、人物姿勢・動作認識に優れたサービス。熟練技術者の動きをデータ化・共有することで、作業効率改善に貢献します。また、異常動作や危険姿勢を検知して、リアルタイムでアラートを出す危機管理機能も。
複数人の監視や特定人物の追跡、異常行動の検知など監視業務に適しているのが「Asilla SDK」のような行動認識に特化したサービスです。
監視カメラなどの映像から、誤侵入や不法侵入を検知したり、「特徴的動作」に基づいて服装や髪型の変化に影響されず同一人物を特定したり、転倒した人物を「違和感」として検知したりといった機能が、警備の強化や事故防止に役立ちます。
用途目的以外にチェックすべき比較ポイントを3つ解説します。
特徴点の検出から姿勢の分析までにかかる、画像の処理スピードは重要なチェックポイント。ヘルスケア分野で利用するなら静止画の処理に数分、スポーツ分野なら動画の処理に数分、製造現場の管理やセキュリティ対策には動画をリアルタイムで分析できるくらいの処理スピードが必要になります。
使用目的によって、どの程度の姿勢検出精度を求めるかが変わってきます。検出の精度はAIの学習量や、AIを作動させるマシンのスペック、カメラの性能が関係します。精度を上げようとすると、AIの追加学習や機材にかかるコストも上がるため、導入前に「何のためにどのくらいの精度が必要なのか」を定義して、自社ニーズにフィットしたサービスを選びましょう。
AI姿勢推定サービスを様々な用途に応用する場合には、APIやSDKとしてサービスを提供しているもの、用途が限定的な場合はすぐに使えるアプリサービスが適しています。サービスの用途を明確にすれば、必要となる提供範囲が見えてくるでしょう。自社開発は難しいが、既存のアプリサービスだと機能が不十分という場合には、デモアプリの作成が可能な「AnyMotion」のように、個別の要望に対応してくれるサービスがおすすめです。
また、サービスに必要な姿勢検出の精度をキープするには、AIに追加学習をさせる必要もあります。そこに社内リソースを割けない場合は、「VisionPose」のようにオプションで追加学習を代行してくれるサービスが便利です。
サービス開発に向いている、3つのAI姿勢推定サービスをご紹介します。
(出所:AnyMotion公式Webサイト)
NTTコミュニケーションズグループが提供する動作解析APIプラットフォームサービス。スマートフォンやタブレットなどで撮影した静止画や動画を、クラウド上で解析処理する。
リラクゼーションサロンや治療院といったヘルスケア業界向けのアプリや、ジムやヨガスタジオなどでフォーム比較に活用するアプリ開発に使われるほか、コンテンツ制作の現場といったエンタメ業界でも導入されている。
動画処理やAIによる推定、データの抽出といった作業を「AnyMotion」側にアウトソースできるので、既存アプリに組み込むのも簡単。開発期間の短縮やコスト削減も期待できる。
(出所:VisionPose公式Webサイト)
人の骨格や姿勢情報をマーカーレスで解析できる姿勢推定AIエンジン。カメラ映像や静止画、動画からの解析が可能。複数人の骨格をまとめて検出することもできること、エッジデバイス(末端機器)上でデータ処理ができることから、産業、スポーツ、研究教育機関、エンターテインメントといったリアルタイム性が求められる分野での導入が多い。
搭載されているAIは、一般的な姿勢を認識しやすいよう学習済み。ダンスやスポーツといった一般的でない動きについては、オプションサービスの追加学習によって解析精度向上が見込める。アプリの受託開発も可能。
(出所:人物分析AI公式Webサイト)
スマホやタブレットをはじめとした、一般的なカメラだけで複数人同時にリアルタイムで姿勢推定が可能なシステム。姿勢だけでなく、表情推定、性別推定、年齢推定など、あらゆる視点から人物を認識・分析することができる。
その分、使用用途も幅広く、スポーツやヘルスケアといった一般的な分野だけでなく、広告効果測定、店舗や施設の来訪者分析といった、より精度の高い分析が求められる分野でも活用されている。
また、画像だけでなく、テキストや音声から感情を読み取ることもできるので、VOC(Voice of Customer)の評価分析にも役立つ。
スポーツ分野に特化した、AI姿勢推定サービスをご紹介します。
(出所:Sportip Pro公式Webサイト)
筑波大学初のベンチャー企業・株式会社Sportipが開発した、スポーツ指導に特化したAI姿勢推定サービス。姿勢を分析する際に、可動域を測定したり、筋肉の状態や重心位置を推定したりといった、スポーツ指導に役立つ機能が充実している。その他に、撮影した動画のスロー再生、2画面再生によるフォームのBefore/Afterチェック、トレーニングメニューの自動作成といった機能も。
SNSで顧客に分析結果を共有することもできるので、トレーニングの根拠の可視化に伴う信頼度アップにつながったというレポートも見られる。独自AIの開発、利用方法のカウンセリングといったサポートも充実。
ヘルスケア分野に特化した、AI姿勢推定サービスをご紹介します。
(出所:シセイカルテ公式Webサイト)
姿勢の歪みを可視化して、おすすめの施術メニューを提案するヘルスケアに特化したサービス。東大発のスタートアップ企業が開発・提供している。
3分ほどで数枚の写真から体の状態を詳細分析し、体の傾きや頭の位置のズレ、猫背の度合いといった体の歪みを数値化。これらのデータを蓄積・比較することで施術効果が見える化できる。さらに、重心位置を分析することで、歪みがある部分をマークした3Dアバターの作成も可能。顧客への興味喚起が期待できる。
これらの分析結果を踏まえて、改善プログラムや治療提案へとスムーズにつなげられるので、リピーター創出にも役立つ。
(出所:Posen公式Webサイト)
頭痛や肩こり、不眠といった現代人の悩みの原因を姿勢から分析・診断するサービス。タブレットで全身を撮影すれば、1分で姿勢測定が完了。電子カルテシステムで従業員や利用者の情報を管理できるので、過去の診断結果との比較、健康状態の把握が可能となる。
管理画面から診断結果をLINEやメールで送信できるので、アフターフォローや継続的な行動改善の促進にもつなげられる。治療院では、治療の経過を視覚的に確認できることから、顧客満足度アップにも貢献している。
産業分野に特化した、AI姿勢推定サービスをご紹介します。
(出所:AIによる人物姿勢・動作認識ソリューション公式Webサイト)
製品の品質や生産計画に問題がある、現場の労働災害を減らしたいといった課題に対するソリューションを提供。姿勢や動作の分析から作業者の問題点を洗い出し、改善につなげる。そのほかにも、体に負担がかかる不安全姿勢を検出したり、作業手順を遵守しているか管理をしたり、といった使い方も可能。作業者が意識しない動作をAIが認識し、危険や不正を未然に防ぐ。
また、自社現場の状況に合わせてアプリケーションの作成、カスタマイズもできるので、より精度の高い認識・分析が実現できる。「作業品質のバラつき・ヒューマンエラー抑制」「現場ナレッジの共有化」といった関連ソリューションも提供。
セキュリティと監視に特化した、AI姿勢推定サービスをご紹介します。
(出所:Asilla SDK公式Webサイト)
独自の姿勢推定モデル「AsillaPose」を搭載したSDK。既存システムとのAPI連携によって、すぐに高度なAIを利用することができる。「侵入検知SDK」「人物同定SDK」「違和感検知SDK」といったラインナップがあり、それぞれ工事現場などへの不法侵入検知、商業施設での動線分析、大型施設での異常行動の検知に役立つ。AIが常時自動監視を行い、異常を検知したらスマホ等に通知されるので、監視コストの大幅削減が可能となる。
セキュリティ以外に、店舗や街なかでのカウンティング、店舗レイアウトの改善のための導線分析といった用途も。
幅広い分野で活用されているAI姿勢推定システムですが、システムごとの特長が異なるため、用途が明確であれば、あまり迷うことなく適切なものを選べるでしょう。
スポーツ指導に使うのであれば、筋肉の状態や重心まで解析できるスポーツ特化型のものを、従業員や利用者のヘルスケアに役立てるなら手軽さと継続性に特化したものを…といったように、まずは用途を設定するのがポイントです。
顧客満足度向上や、生産計画の改善、スポーツ指導の数値化・平準化など、AI姿勢推定システムの導入によって、さまざまな効果が期待できます。新しい技術をいち早く取り入れることで、生産性の高い現場づくりを実現しましょう。
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